そこで日本の伝統的指導法である「徒弟制度」や、現代企業における実践例の研究を進める一方で、
プロジェクト[
注1]において議論を重ねてきた。
その中で分かってきたのは、優れた「実践知」教育にはある共通点が存するということである。
それを一言でいうと、現在の学校教育で主流の「親切で丁寧な」指導法とはむしろ逆の、
「逆説の教育」とでも言うべき指導法の実践である。
例えば「徒弟制度」によって小川三夫等多くの優れた弟子を育てた、法隆寺宮大工棟梁西岡常一はこう述べている。
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注4]
棟梁が弟子を育てるときにすることは、一緒に飯を食って一緒に生活し、見本を示すだけです。
道具を見てやり、研ぎ方を教え、こないやるんやというようなことは一切しませんのや。
「こないふうに削れるように研いでみなさい」とやって見せるだけですな。
(略)教わるほうは「もっとちゃんと教えんかい」、「これだけじゃ、できるわけないやろ」、「おれはまだ新入りで親方とは違うんじゃ」とかいろんなことが思い浮かびます。
しかし、親方がそういうんやからやってみよう、この方法ではあかん、こないしたらどうやろ、やっぱりあかん、どないしたらいいんや。
そうやってさまざまに悩みますやろし、そのなかで考えますな。
これが教育というもんやないんですかいな。
自分で考えて習得していくんです。
それを生徒がやっと考え出したときに「何やっとるねん、早ようせい。愚図やな」、「そんなときはこうや」、
こういって先生や親は考える芽を摘み取ってしまうんですな。(p73)
今でも高度な技術力を誇る町工場では「徒弟制度」を採用している所が多いというし(塩野米松談)、
『丁稚のすすめ』(2009年 幻冬舎)の著者秋山利輝のように、「徒弟制度」の利点を説く企業経営者も多い。
また一見「徒弟制度」とは対極的に見えるが、やはり逆説的な指導法によって成果を上げたのが、CDやAIBO等を開発した天外司朗である。
天外は自ら率いた開発チームを「燃える集団」と呼び、チクセントミハイの「フロー理論」によってそれを説明している。
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注5]
フロー状態にある「燃える集団」は、メンバー自らが考え、意志決定し、やる気と幸福感に満ち溢れ、かつ優れた成果を出す集団である。
そこでのマネジメントは、組織をコントロールする指示や命令ではなく、感性にフィードバックする質問によって行われる。
それは、丁度自転車に手を離して乗っているが如く、危なくなったらすぐ手を出せるが、普段は手を離しているようなものだという。
「徒弟制度」は手取足取り教えないからこそ、「燃える集団」は指示・命令をしないからこそ、弟子やメンバーが自ら学び成長し、大きな成果が上がるという、その逆説性において共通している。
そしてこの逆説性は、中森を含めたプロジェクトメンバーの課外活動指導にも存するのである。
例えば「教師は(一々手を出さず)マネジメントに徹する」と言う三崎幸典は、
ロボコン大会出場、ロボット作製教室、高齢者対策、地域一体型創造教育(動く八朔人形やお茶サービスロボ制作)等数多くの実践を試み、
高専ロボコン全国大会優勝4回の他、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞等多数の賞を受賞するなど、大きな成果を上げている
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注6]。
また「教師は出来るだけ手をかけない」と繰り返す三木功次郎も、サイエンス研究会を立ち上げ、
国際生物学オリンピック(銅メダル)、高校化学グランドコンテスト(最優秀賞等)、サイエンスボランティア活動(実験教室の開催等。ボランティア・スピリット・アワード(銀メダル)受賞)等、多くの成果を上げてきた
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注7]。
ここには、「手取足取り」とも「放任」とも違う、優れた「実践知」教育が存するのである。
これまでこのような「実践知」教育は、指導者個人の力量に還元され、共有されて来なかった。しかしこれらの実践から共通のメソッドが取り出せれば、
他の指導者にとって非常に有効であることは言うまでもない。今、「徒弟制度」や「燃える集団」を参考にしながら、メンバーの課外活動指導から「人間力」養成指導に使えるメソッドを取り出してみたい。