「聴く力」をつけるプレゼンテーション授業

 畑村 学


1. はじめに

 高専において、プレゼンテーション(1分間スピーチからパワーポイントを用いた本格的なプレゼンテーションまで含む)は、現在国語を中心に多くの授業で行われている。
 これは、近年高専の国語教育においてコミュニケーション能力を身につけることが重視されていること、またそのことと関連して、JABEEの定めた認定基準に「日本語による論理的な記述力、口頭発表力、討議等のコミュニケーション能力」(基準1(1)f)を満たすような学習目標や授業計画が求められていることに大きく拠っている。
 宇部高専(5学科5クラス)の国語の授業は、1・2年は現代文・古文・漢文、3年生は現代文、4年生は各教員により、プレゼンテーション・作文・ディベートを中心とした授業がそれぞれ行われている。
 このうち、プレゼンテーションと関わるのは1~3年の現代文や4年生の現代文の授業である。シラバスは各教員ごとに異なるが、3年までの授業では「読む」「書く」に加えて、スピーチ等を通じて「話す」「聴く」力を修得するための授業が行われている。
 さて、プレゼンテーションの授業と言えば、普通プレゼンテーションをする側である話し手の指導を指す。確かにプレゼンテーションの主役は発表者であり、それ故に話し方や資料の作り方、発表原稿の作成など発表者への指導が中心となるのは当然であろう。ただ、限られた授業時間数で1人の学生が発表する回数はせいぜい1、2回、多くても3、4回であり、学生は授業の大半は「聴き手」として授業に参加することになる。よって、聴き手に対する指導が不十分であれば、授業中発表者以外の学生は退屈であり、貴重な時間を無駄に使ってしまうことになりかねない。
 話の聴き方には、話し方や文章の書き方と同様に、やはりポイントやコツがある。聴き手としてプレゼンの授業に参加することの方が多いのであれば、発表者の指導と併せて聴く力を向上させる指導も同時に行おうとした次第である。
 以下、筆者が担当する1~4年の国語(「国語Ⅰ~Ⅳ」)と、専攻科の「日本語表現」で行っているプレゼンの授業について、特に聴き手の聴く力の向上を目的とした取り組みについて紹介することにしたい。

2. 授業の実際

 平成16年度、筆者は1年生3クラス、3年生3クラス(以上通年)、4年生2クラス(半期)の「国語」を担当した。平成17年度は、1年生2クラス、2年生4クラス、4年生2クラスに加えて、初めて専攻科の「日本語表現」(半期)を担当することになった。
 1~3年のプレゼンテーションの授業は、発表時間やテーマに変化をつけながらも基本的には同じやり方で行っている。4年生では図の作成を中心とした資料作成とプレゼンをメインにした授業にし、専攻科では15回のうち3回をスピーチの授業に、2回をプレゼンの授業に充てた。
 以下、1~3年、4年、専攻科に分けて、各プレゼンテーション授業の実践を、聴く側の指導を中心に紹介する。

(1)1~3年

 1年から3年までは、1年間の授業のうち4分の1にあたる約7回の授業(90分授業の場合)を使ってスピーチを行っている。具体的には、例年前期中間試験後から前期末試験までの間をスピーチに充てている。
 スピーチのテーマは、おすすめの本、今はまっていること、最近感動したこと等であるが、おすすめの本の紹介は読書を習慣づける目的もあり全学年で行っている。なお、スピーチの時間は基本的に1分と3分の二通りで行っている。
 さて、スピーチ授業では、ガイダンスで聴き方について下記のことについて指導している。

  a スピーチ終了後に質問するつもりで聴く
  b 「ポイント・流れ」や「質問・コメント」をメモしながら聴く
  c 話し手が話しやすい雰囲気をつくる。顔を見る、うなずく、笑うなど
  d 質問やコメントをする時は、話し手を見て、はっきりした声でする
  e コメントは「ほめる」コメントに限る
  f 終了後、審査用紙でスピーチを評価する

図1
図1 スピーチシート


 aについて、人が前に出て何らかの話をした場合は、それに対してリアクションをするのが礼儀であり、質問もコメントも無いのは聞いていないのと同じである。このことは特に授業の最初にに声を大にして注意している。
 そして、スピーチに対するリアクションである質問やコメントに必要なのが、bメモをしながらスピーチを聴くことであり、これには「スピーチシート」(図1)を配布し、スピーチの「ポイント・流れ」と「質問・コメント」を分けてメモさせている。
 また、授業の最初には筆者が実際にスピーチを行い、学生からいくつかの質問を出させて、それぞれの質問のレベルを指摘する。そして良い質問とは、スピーチのテーマや本のテーマに関連した質問であり、かつ何を質問しているのかが明確な質問であること、また、その人の経験に即した質問(きっかけ、コツ、一番のおすすめ、変化など)も、相手が答えやすい上に様々な場面で応用のきく良い質問になりやすいことを説明する。さらに、良い質問かどうかは質問の内容だけでなく質問の仕方も影響するとし、自分以外の聴き手も共有できる質問(声の大きさ、背景の説明など)を心がけるよう指導する。
 全7回のスピーチの授業で、学生は4~5回のスピーチを行う。そのうち1回はクラス全員の前で行い、残りは4~8人のグループで行う。
 以下、グループと全体とに分けて説明する。

(1)グループスピーチ

 グループでスピーチを行う場合、机を合わせ、順番を決めてスピーチを行う。1グループ6人の場合、40人のクラスでは6~7人が同時にスピーチをしていることになる。
 5人の聴き手は、先の「スピーチシート」にメモしながらスピーチを聴き、スピーチ終了後、メモした質問やコメントをもとに実際に質問する。質問は挙手した順番に発表者が指名し、後から指名された者は、すでに出た質問と重ならないよう質問する。そのため後になればなるほど質問がしぬくくなる。これにより、積極的に質問しようとする意識を持たせることができる。発表者は出そろった質問から自分が答えたい質問を1つだけ選んで答える。選ばれた質問者にはポイントがつく。このポイントは成績評価と関連する。
 スピーチの授業を始めたばかりの頃は、テーマに関連しない些末な質問が多く出るが、回数を重ねるごとにそうした質問は減ってくる。レベルを意識しながら質問したり人の質問をチェックしたりすることで、質問のレベルが向上するのである。
 全員のスピーチ終了後、グループのなかから、

  1:最も内容が充実していた人
  2:最も知的好奇心がわくスピーチをした人
  3:話す態度が一番良かった人

を各1名選び、所定の用紙に記入する。以上は発表者の評価であるが、用紙にはこれに加えて、

  4:最も雰囲気の良かった聴き手

を選ぶ項目を設けており、スピーチを聴く際に積極的にリアクションする習慣を身につけさせている。

(2)全体スピーチ

 クラス全体で行うスピーチにはいくつかの種類がある。以下、①列指定方式と、②マンツーマン方式の2種類を紹介する。

①列指定方式
図2
図2 列指定方式審査用紙

 列指定方式では、聴く側は1人の発表につき「審査用紙」を1枚書く。審査用紙の上半分は先の「スピーチシート」と同じくスピーチのポイントや流れ、質問やコメントをメモするスペースがあり、下半分はスピーチを評価する評価項目が記されている。聴き手はそれぞれ5段階で評価する。
 図2は「おすすめの本」で1分間スピーチをする場合の列指定方式の審査用紙である。評価項目は6つあり、それぞれ以下の通りである。

  1:内容は充実していたか
  2:本のレベルは高かったか
  3:スピーチの声はよく聞き取れたか
  4:話し方や態度に工夫は見られたか
  5:紹介された本を読みたくなったか
  6:

 項目1・2は内容、3・4は話し方に対する評価で、項目5はスピーチの全体的な印象である。
 項目6は、評価段階の「5」に最初から○をし、項目名を空欄にしている。これは、聴き手に発表者の良い点を探しながらスピーチを聴かせるためであり、スピーチで一番良かった点(笑顔、身振り手振り、話のテンポなど)を記入する。質問やコメントは基本的にはコミュニケーションのための手段であり、話し方や聴き方のレベルがほぼ同じ学生間でスピーチをする場合、話し手の欠点やミスを指摘し合うことはそれほど意味はないと考える。授業中のコメントを「ほめる」コメントに限定しているのも同じような考えによる。
 審査用紙の一番下には「一番良かった質問・コメント」の発言者を書く欄を設けている。これにより、自分が質問しない場合でも他者の質問のレベルをチェックすることで自分の質問のレベルを上げることができる。
 なお、審査用紙は授業終了後に発表者自身で回収、合計や各項目の平均を計算し、自分の発表の良い点・悪い点をチェックして、その結果を「スピーチまとめ」にして提出させている。

②マンツーマン方式

図3
図3 マンツーマン方式審査用紙(上部3分の1)

 スピーチ授業の早い段階で、特に質問のレベル向上を目的としたスピーチを行う。それが「マンツーマン方式」である。
 これは、1人の発表者の発表後に、任意で質問者1人を指名して質問させるものである。2人を除いたその他の聴き手は発表者のスピーチだけでなく、質問者の質問のレベルもチェックする。
 図3は、マンツーマン方式の審査表(3分の1のみ掲示)である。用紙中央より左が話し手に対する評価(A内容の充実、B知的レベル、C話し方・態度)を記す欄であり、右側が質問者に対する評価(質問のレベル)をチェックする欄である。
 普通スピーチの授業では話し手のみ聴き手の目に曝されるが、この方式の場合、質問者も発表者同様他者の目に曝され、質問の内容や質問の仕方(話し方)をその他大勢の聴き手を意識しながら質問しなければならない。

 1~3年までのスピーチ授業における聴き手の評価は、質問の回数や発表者に指名された良い質問の回数を点数化し、レポート点として成績評価に加えている。
 また定期試験では、筆者が試験時に各教室を回ってスピーチを行い、スピーチの主題を聴き取り、レベルの高い質問を考えて記す問題を設け、聴く力が実際に身に付いたか確認している。

(2)4年生

 4年の国語では、漢詩を素材としたプレゼンテーションの授業を行っている。
 授業は半期15回で、ガイダンスの2回を除いた13回をプレゼンの授業に充てている。
 発表者は、発表の約2週間前から発表資料(A4×4枚で提出し、A3用紙の裏表に印刷)の作成に取りかかり、聴き手が発表までに目を通せるよう発表当日の朝までには印刷して配布する。聴き手は授業までに資料に目を通し、質問などをあらかじめ考えておく。授業では資料に線を引いたり質問を書き込んだりしながらプレゼンを聴く。
 1人の発表時間は10分で、発表後、筆者が任意に列を指定し、指定された列の学生は質問か「ほめるコメント」をしなければならない。
 質問が一通り出たら、発表者がそのなかからレベルの高い質問を2つ選んで答える。この場合のレベルの高い質問とは、発表者が準備と発表に最も力を注いだ「考察」(担当した詩を深く理解するために担当者がテーマを決めて調査した結果を、文章と図でまとめた箇所。プレゼンのメインとなる部分で、発表時間10分のうち5~8割を費やして発表する)に関連した質問である。
 質問の回数は、1~3年と同じく成績評価と直接関連しており、どの学生が何回質問したか、発表者に何回選ばれたかは筆者が記録している。1回質問かコメントをすれば1ポイント、発表者に選ばれれば2ポイントでカウントする。
 プレゼン後、聴き手は1~3年のスピーチと同じくプレゼンテーションを審査する。その際の「審査用紙」を図4に挙げる。

図4

図4 4年プレゼン用審査用紙

(3)専攻科

 筆者は平成17年度、初めて専攻科1年(22名。半期15回)の「日本語表現」の授業を担当した。授業では、日本語の表現力を上げるために4つのテーマ―要約・スピーチ・小論文・図式化―を挙げ、その中の1つにスピーチを取り入れた。以下その授業を紹介する。

1 グループ分けと配置

・受講生22名を11名ずつの2グループに分ける。それぞれのグループは教室の前方と後方とに分かれ、それぞれ反対側を向いて座る。
・2つのグループは、さらにAグループ(最初にスピーチする5名)と、Bグループ(スピーチ・質問を評価する6名)に分かれ、Aグループが発表者に近い前方、Bグループが遠い後方に座る。

 全員を2つに分けるのは、1回の授業で全員がスピーチをするためと、1人がする質問回数を増やすためである。

2 スピーチ

①Aグループ

・5人が順番を決めてスピーチする。1人がスピーチをしている時、残りの4人は聴き手(質問者)となる。
・聴き手は「スピーチシート」(図1)にポイントや流れ、質問・コメントをメモしながら聴く。
・スピーチ終了後、聴き手は質問をする。質問が出そろった後、発表者は自分が良いと思う質問を1つ選び答える。
・質問に答えた後、交代する。以下同じ要領で5人全員がスピーチを行う。

②Bグループ
・Aグループのスピーチを聴き、「審査用紙」(図5)を使ってスピーチを審査する(1 内容の充実度、2 知的レベル、3 話し方・態度)
・スピーチ評価に加えて、質問者の質問のレベルを5段階でチェックする。
・発表者が交代すれば、審査用紙を変えて同様の作業を行う。

 Aグループのメンバーのスピーチがすべて終了したら、Bグループと前後座る場所を交代し、同じ要領でスピーチを行う。


図5
図5 専攻科用スピーチ審査用紙

3 スピーチ終了後

 A・B両グループのスピーチがすべて終わったら、両グループを合わせた11名のなかから、1~3年のスピーチと同じく、A 内容が最も充実していた発表者、B 知的レベルが最も高かった発表者、C 話し方や雰囲気が一番良かった発表者、D 最も話しやすい雰囲気だった聴き手、を各1名決める。
 専攻科のスピーチの特徴は、スピーチする側(話し手と質問者)と審査する側を明確に2つに分けている点である。審査する側をスピーチから完全に分けることで、スピーチだけでなく質問者の質問レベルをより客観的にチェックすることが可能となる。

3. まとめ

 最初に述べたように、授業でプレゼンテーションを行う場合、普通プレゼンテーションをする側の指導が中心となる。「コミュニケーション能力」という場合も、基本的には発表する側の能力を指すのが普通であろう。そうした能力や技術の修得は、今後社会で大いに必要とされるものであり、高専の国語の授業においても積極的に行われてしかるべきである。効果的なプレゼンテーションの入門書や解説書はすでに多く出版されており、今後それらを国語の授業にどう取り入れていくか検討する必要がある。
 ただ1分間スピーチであれ、パワーポイントを使った本格的なプレゼンテーションであれ、人前で発表する場合、発表する側は恥をかきたくないという意識が強くあるため、ある程度やり方さえ提示してやればそれになりに一生懸命努力するものである。また、プレゼンテーション力の向上は、結局は何回も繰り返し発表し、人前で話す経験を積むことにあると考える。よって、授業でプレゼンテーションを行う上で大事なのは、発表する機会を増やすことに加えて、話し手以外の聴き手に対する指導を如何に行うかにあると言えよう。
 プレゼンテーションの授業は、普段の講義形式の授業より盛り上がるため、学生だけでなく教員も比較的充実感を感じる。しかし、いざそれでどのような力がついたかというと、聴き手に関して言えば、受動的にスピーチを聞いているだけでは授業に参加しているとは言えても、聴く力の向上にはつながっていないであろう。
 聴く力を向上させるためには、まずはスピーチシート等を利用して内容をメモする習慣を身につけさせる。その上で、メモをもとにレベルの高い質問やコメントを義務づける必要がある。
 本稿で紹介した聴き手に対する指導により、聴く力がどれだけ身についたかについては、今度アンケート調査によってその効果を確かめることにしたい。

 注

1)『高専における国語コミュニケーションスキル教育の評価と改善 中間報告書』(平成14―15年度国立高等専門学校協会教育方法改善(東北地区高専)共同プロジェクト、鶴岡工業高等専門学校主幹、2003年3月)参照。
2)畑村「漢詩を素材としたプレゼンテーション授業の実践」、『漢文教育』第29号、2004年11月

 参考文献

1)中島孝志『巧みな質問ができる人できない人』、三笠書房、2001年
2)齋藤孝『質問力』、筑摩書房、2003年
3)藤沢晃司『理解する技術』、PHP新書、2005年
4)吉田たかよし『図解相手を瞬時に引きつける最強の話し方』、大和書房、2005年