読書指導を兼ねたクラスホームルーム指導の実践

 畑村 学


1. はじめに

 クラスホームルーム(以下HR)は、担任が比較的長時間に渡り、授業以外でクラスの学生全員と接することができる貴重な時間である。この時間を利用して担任は、クラスの学生が当面する課題への対応や、健全な生活態度の育成に資する有益な情報等を提供することが可能である。しかし実際は、多忙な校務や準備にかかる時間が捻出できないこと等の理由から、安易に事務連絡や行事予定を伝達するための時間に偏りがちである。
 本稿は、筆者が平成15年度に行った経営情報学科2年のクラスにおけるHR指導の実践報告である。事務連絡に偏らない、学生にとって有意義かつ実益のあるHRを目指し、毎回テーマを1つ決めて、それに関する図書を紹介した。以下詳しく述べたい。

2. 担任アンケート

 宇部高専においては、1年から3年までの全クラス(一学年5学科。全15クラス)で、毎週火曜日の7時限目(50分)にクラスHRが組まれている。担任は1、2年生は一般科教員が、3年生は専門学科の教員が担当している。
 平成15年度のクラスHRの実態を把握するために、平成16年4月に、平成15年度の1年から3年までのクラス担任(計15名)に下記のようなアンケート調査を行い、その結果12名より回答を得た。以下、集計結果(筆者も含む)をアンケート内容と併せて記す。

 Ⅰ 1回の平均HRはどのくらいでしたか。
  ※掃除指導に費やす時間を除く

  1 5分以内(0人)  2 10分以内(3人)
  3 20分以内(3人)  4 30分以内(4人)
  5 40分以内(3人)  6 50分(0人)

 Ⅱ どのような形態でHRをされましたか。複数回答可。

  1 時々口頭や白板を使って連絡事項を中心に説明 (2人)
  2 毎回口頭や白板を使って連絡事項を中心に説明 (5人)
  3 時々資料を使って連絡事項を中心に説明 (1人)
  4 毎回資料を使って連絡事項を中心に説明 (0人)
  5 時々口頭や白板を使って連絡事項とそれ以外のさまざまな話を説明 (1人)
  6 毎回口頭や白板を使って連絡事項とそれ以外のさまざまな話を説明 (3人)
  7 時々資料を使って連絡事項とそれ以外のさまざまな話を説明 (4人)
  8 毎回資料を使って連絡事項とそれ以外のさまざまな話を説明 (1人)

 Ⅲ Ⅱで、5~8を答えた方に、具体的にどのような話をされましたか。複数回答可。

  1 道徳的な話 (4人)
  2 時事問題 (3人)
  3 学生時代の話・昔話(2人)
  4 その他 (7人)

 Ⅳ どのようなHRが望ましいと考えますか。

  1 HRは必要ない (0人)
  2 事務連絡のみを行うHR (0人)
  3 事務連絡がメイン、学生に役立つと考える情報を提供することをサブとするHR(1人)
  4 学生に役立つと考える情報を提供することをメイン、事務連絡をサブとするHR(8人)
  5 事務連絡と、学生に役立つと考える情報を提供することのウエイトが同じHR(2人)
  6 その他 (3人)

 Ⅰ「HRの時間」は本来50分であるが、50分フルに行っている担任はいなかった。これは、HRを教室の掃除の時間としても利用していること等が原因であろう。最も多かった回答は4「30分以内」で4人であった。筆者もこれに該当する。また、2「10分以内」と答えた担任が3人、逆に5「40分以上」のHRを行った担任も3人であった。
 次にⅡ「HRの形態」であるが、最も多かったのが2「毎回口頭や白板を使って連絡事項を中心に説明」というもので5人。次いで7「時々資料を使って連絡事項とそれ以外のさまざまな話を説明」が4人であった。筆者の場合、8「毎回資料を使って連絡事項とそれ以外のさまざまな話を説明」に該当するが、同様の形態でHRを行った担任はいなかった。
 Ⅲ「HRの内容」では、道徳的な内容のもの、時事問題など担任によって様々であった。4「その他」では、就職・進学指導、学生生活の過ごし方、将来設計などがあった。
 Ⅳ「理想とするHR」では、4の「学生に役立つと考える情報を提供することをメイン、事務連絡をサブとするHR」とする回答が圧倒的に多く、各担任とも事務連絡に偏らないHRを理想としていることがわかった。

3. HRの具体的内容

 平成15年度、筆者が担任をした経営情報学科2年(男子11名、女子30名。以下2B)は、本校5学科(機械工学科、電気工学科、制御情報学科、物質工学科、経営情報学科)のうちで女子学生が男子学生と比べて多く、英語や国語等文系の科目を得意とする学生が他学科に比べて多いという特徴がある。筆者自身1年次に2Bの国語を担当しており、例年通り国語の平均点は筆者が担当した3クラス中で最も高かった。そうした理由もあって、年度初めにHRの計画を立てる際に、筆者がこれまで読んだ本のなかからお勧めの数冊を紹介しながら学生に有益な情報を提供するようなHRを企画したわけである。
 平成15年度に行ったHR(全30回)の具体的内容は下記の通りである。学年全体でテーマを統一して行ったり、5クラスが合同で行ったHRには※をつけた。それ以外が担任指導によるHRであり、毎回の具体的なテーマはゴシック体で記している。

【前期】

 1※始業式:自己紹介、単位取得の仕方
 2まねる
   野口悠紀雄『「超」発想法』、スティーブン・キング『小説作法』、『論語』為政篇他
 3エネルギーを使い切る
   杜甫「飲中八仙歌・李白」、齋藤孝『天才の読み方』、大村はま『新編 教室をいきいきと1』、エッカーマン『ゲーテとの対話』
 4年齢の暗示にかかる
   大江健三郎『セブンティーン』、山田かまち『17歳のポケット』、立花隆『二十歳のころ』、谷川俊太郎編『二十歳の詩集』、菅野ぱんだ『1/41』
 5旅に出る
   井村和清『飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ』、蔵前仁一『ホテルアジアの眠れない夜』
 6空海の空白時代
   立花隆『青春漂流』
 7濫読の効用
   山口瞳『続・礼儀作法入門』
 8※学科主任のお話
 9人材選びの秘訣
   高島俊男『広辞苑の神話』
 10英語を学ぶ
   藤原正彦『古風堂々数学者』
 11野口健『落ちこぼれてエベレスト』名言集
 12漱石の「これだけは読め!」
   夏目漱石『こころ』『私の個人主義』『夢十夜』
 13一つのことにはまる
 14※期末試験計画書作成
 15型にはまる
   樋口裕一『ホンモノの思考力』

【後期】

 16天才の生き方に学ぶ
   小川勝『イチローは「天才」ではない』、齋藤孝『自己プロデュース力』、中島敦『山月記』、藤原正彦『天才の栄光と挫折』、大崎善生『将棋の子』、松本大洋『ZERO』他
 17※クラスマッチ関係
 18メモする習慣をつける
   司馬遼太郎『竜馬がゆく』、外山滋比古『思考の整理学』
 19編集する
   司馬遼太郎『坂の上の雲』
   外山滋比古「知的創造のヒント」
 20長州人の友情
   司馬遼太郎『世に棲む日日』
 21松陰と読書
   司馬遼太郎『世に棲む日日』
 22※5年生の話
 23時間のムダをなくす
   和田秀樹『わが子を東大に導く勉強法』
 24技を伝えることの難しさ
   『荘子』天運篇、畑村書簡
 25図で考える
   西村克己『脳を鍛えるやさしいパズル』
 26※OBの話
 27エジソンの言葉
   浜田和幸『エジソンの言葉』
 28※交通安全教室
 29新選組フリークになろう!
   黒鉄ヒロシ『新選組』他、司馬遼太郎『新選組血風録』他、服部之総『黒船前後・志士と経済』、吉田松陰『留魂録』
 30今を生きる、読書、アイデンティティ、伝える
   吉田松陰『留魂録』、『荘子』逍遥遊篇

 ※を記した回を除くと、担任指導として行ったHRは前期・後期合わせて23回であった。23回をテーマ別に分類すると次のようになる(一部重複有り)。


  ①上達の秘訣(11回):2、3、4、11、13、15、16、18、19、25、27
  ②読書のすすめ(4回):7、11、12、21
  ③アイデンティテイ(3回):20、21、30
  ④教養(3回):12、27、29
  ⑤勉強(2回):10、23
  ⑥人生、趣味、就職(5回):5、6、9、24、27


 最も多いのが「上達の秘訣」に関する本の紹介であり、全部で11回であった。次いで「読書のすすめ」が4回、アイデンティティに関する話と教養の話が3回であった。
 以下、HRで学生に配布したレジュメの具体例として、第29回「新選組フリークになろう!」(図1)と、第15回「型にはまる」(図2)のレジュメ(A4)を挙げる。

図1_1 図1_2
図1 新選組フリークになろう!(第29回)

図2
図2 型にはまる(第15回)

 HRでは、最初にその時間のテーマの説明と紹介する本の説明を簡単に行い、次いでレジュメに載せた文章を読み上げる。その後テーマと絡めて文章の内容を説明した。ここまででだいたい20~30分である。その後事務連絡等を10分ほど行い、HRは終了である。
 レジュメを見ていただければわかるが、時間配分と同じく、レジュメの構成も最初にテーマに関する記事、その後に行事予定を載せており、HRのメインとなるのが事務連絡ではないことを明確にしている。
 事務連絡だけであれば、週に一度の貴重なHRを使わなくても、周知さえ徹底できれば休み時間や自分の授業のなかでも行える。今やほとんどの学生が所持する携帯電話のメール機能を利用することも可能であり、筆者自身パソコンからクラスの学生にたびたびメールを送信し、諸々の連絡をしている。
 毎回テーマを設定し、それに関連したレジュメを準備することは、時に担当教科の授業の準備以上の時間と労力を要する。しかし、HRは教科指導を離れて教員が学生と直に接する貴重な時間であり、充実したHR指導はクラス運営にも非常に効果がある。
 研究室における個別指導と、HRにおける一斉指導とは担任指導における車の両輪のようなものであり、この2つの指導を積極的に行うことは、勉強や人間関係、将来の進路等の悩みをかかえる学生にとっては、非常に有益なものとなる。これら2つは、特に低学年のクラスにおいては不可欠であると考える。

4. 学生アンケート

 筆者が実践した読書指導を兼ねたHRが、果たして学生にどのように受け取られたか、担任の独善に終わっていないかどうか、年度最後のHR(平成16年2月20日)で下記のようなアンケート調査を行い、41人全員から回答を得た。以下、アンケート内容と結果を記す。

 Ⅰ 時間    ※HRの時間は本来50分です
  1 非常に長い
  2 まあ長い
  3 ちょうどよい
  4 少し短い
  5 非常に短い

 Ⅱ 内容
  1 非常におもしろかった
  2 まあおもしろかった
  3 どちらとも言えない
  4 あまりおもしろくなかった
  5 全くおもしろくなかった

 Ⅲ 実益
  1 非常にためになった
  2 まあためになった
  3 どちらとも言えない
  4 あまりためにならなかった
  5 全くためにならなかった

 Ⅳ どんな内容のHRを希望しますか。具体的に書いて下さい。

図3_1
図3_2
図3_3
図3 HRに関するアンケート結果

 Ⅰ「時間」に関して言えば、HRの平均時間30分は、50分の授業からすればさほど長いとは言えないと思うが、1「非常に長い」、2「まあ長い」と答えた学生が36/41人いた。筆者は2年次から本クラスの担任となったが、1年次の教員のHRが比較的短かったため、相対的に長いと感じたようだ。
 しかし、それにも関わらず、Ⅱ「内容」に関して1「非常におもしろかった」、2「まあおもしろかった」と回答した学生がそれぞれ17人、21人(38/41人)おり、クラスのほとんどの学生が話の内容に興味を持ってくれた。
 また、Ⅲ「実益」の面でも、1「非常にためになった」、2「まあためになった」という学生が34/41人おり、4「あまりためにならなかった」、5「全くためにならなかった」と答えた学生は1人もいなかった。
 以上のアンケート結果から、今回のHRはまずまず学生に受け入れられたと言ってよいであろう。
 このように、学生が興味を持って話を聞いたのは、1つには毎回テーマを決め、それに即したレジュメを欠かさず準備したことによるであろう。口頭や板書によるHRは、時間が短い場合は問題ないが、時間が長くなればなるほど緊張感や集中力が持続させにくくなる。特にテーマが道徳的な内容になる場合、かなりの話術と学生の興味を引く話題でない限り、長時間に渡り学生の意識を集中させるのは困難である。
 しかし、紹介する本の表紙を掲載した、テーマに沿ったレジュメを準備し、それに従って授業を進めることで、ある程度長い時間でもHRに集中させることが可能となる。教員も、実際には自分の考えや価値観を述べているのであっても、本の文章を掲載したレジュメを利用することで話に客観性を持たせることができる。道徳的な話をする場合でも、レジュメがあることで話があまり説教くさくはならないのである。
 学生が興味を持って聞いたもう1つの理由は、テーマの実益性であろう。先のアンケート結果にあるように、HRの内容が「ためになった」と答えた学生が41人中34人いた。学生生活を送ったり、社会人として生きていく上で必要な話題(読書の必要性、メモを取る習慣、英語学習の意義等)や、勉強や技術などの上達の秘訣、郷土の歴史など、毎回テーマを1つに絞り、それに相応しい本や文章を紹介した。
 学生の貴重な時間を使うからには、何か1つでも価値のあるものを学生に提供しようと、日頃の読書から、設定したテーマに関する文章をチェックしながら読んでいたことが、レジュメを作成する上で非常に役立った。
 筆者自身も人間として教員として発展途上にあり、それ故に学生とともに自分も学ぼうとする意欲があった。それが大量の読書へと繋がったと言える。HRで紹介するという目的がなければ、これほど多くの本を読むことはなかったであろう。

5. おわりに

 クラスHRは担任に全権が委ねられ、「担任指導」と称すればいかなる内容のHRを行うことも可能である。ここ数年、法人化やJABEE等で校務が増加傾向にあるなかで、HRの準備にかける時間も限られ、安易に事務連絡に偏ったHRになりがちである。
 しかしながら、担任のやり方や工夫次第では、HRはクラス運営に大きな効果があり、かつ学生にとって有益な情報を提供する貴重な時間となり得る。本報告が、クラス指導に真摯に取り組む先生方の参考に少しでも供することができれば幸いである。

付記

 本稿は、平成16年8月26・27日、独立行政法人国立高等専門学校機構主催で行われた「平成16年度高等専門学校教員研究集会」(長野高専世話校、於ホテルメトロポリタン長野)にて口頭発表したものをまとめたものである。その際、研究集会及び懇親会にて、審査員の先生方をはじめ多くの先生方に貴重なご意見とご質問をいただいた。ここに記して感謝申し上げます。