現代GPによる新しい地域連携の推進


(詫間電波工業高等専門学校)○三崎幸典、森和憲 、東田洋次 、横山学 、三河通男、小野安季良 、天造秀樹、月本功 、森宗太一郎 、一色弘三 、宮武明義 、金澤敬三 、垂水良浩 、村上浩

 詫間電波高専は平成18年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム(以下現代GP)「地域活性化への貢献「地元型」において「ものづくりによる地域連携プログラム」-学生・教職員・地域一体となった理科学離れ対策・地域活性化・高齢者対策-が採択され、平成18年度から平成20年度まで積極的に実施した。[注1]本プログラムは地元の地域産業が発達していない香川県三豊市の地域活性化を、理科学離れ対策から高専の工学教育、高齢者対策まで学生、教職員、地域(自治体、市民)一体となり推進し、最終的には学官連携、産学官金連携に結び付けようという新しい試みである。3年間(実質は約2年半)という短期間にそれぞれの試みを並行して推進し、当初想定した結果をはるかに上回る結果が得られたので報告する。なお詳細は講演の際述べることとし、本要旨では取り組み概要と実施内容について概略を述べる。


 現代GPを推進する場合、一般的には①学科で選出されたメンバーが高専全体で組織を作る、②推進する学科が主体で組織を作る、などが考えられるが、本現代GPの組織は当初取組責任者がメンバーを高専内で公募し、取り組みを開始した。その後、自由意思で組織に加わるメンバーを加え、最終的には学科組織等を超えた教職員14名が取り組みメンバーとして活動した。これにより高専内で特徴的な活動を行っている教職員がメンバーの強力な組織を作ることができ、それぞれの活動を今まで以上に理解するだけでなく、別な活動のノウハウや新しいアイディアを共有することにより、全体の活動に非常に良い影響を与えた。


 現代GPにおいて初年度予算は書類提出時に決める必要があるが、次年度以降の予算は次年度の前にメンバーが集まり予算を新しく編成することができる。予算配分はそれぞれのメンバーから次年度どのような活動を行いたいか?計画のどこまで達成できると予想されるかをプロジェクト形式で計画を立て、メンバーのミーティングで話し合い、全員が推進すべきと考えたプロジェクトには積極的な予算配分を行った。またプロジェクトが始まり予算が不足する場合、必要であれば予算調整も積極的に行った。これによりメンバーの積極的な活動を支援することができ、当初想定した以上の実績が得られたと考えられる。


 現代GP地域活性化への貢献において取り組み内容は非常に重要である。現代GP予算申請以前から積極的に行っていた理科学離れ対策、ロボコンによる創造性教育、工学導入教育を中心にし、現代GP取り組みによりさらに推進することとした。最終目標を地元イノベーションの創出とし次のような大きなプロジェクトを推進した。
①「ロボコン」による創造性教育
② 学生の工学導入教育
③ 理科学離れ対策-ロボット作製教室-
④ 地域一体型による創造性教育
⑤ 地域連携による卒業研究
⑥ 高齢者対策(認知症対策)
最終目標を設定することにより現代GP終了後も継続的に実施可能な計画を立て、取り組みが実施できたと考えている。


 当初ロボコンのみを想定していたがプロコンやキャンパスベンチャーグランプリ(以下CVG)などのアイディアコンテストを加え「ものづくり」をキーワードとした学生活動を推進することにより新しい教育システム構築を目標とした。その結果、ロボコンでは平成18年度高専ロボコン全国大会優勝・ロボコン大賞ダブル受賞、平成19年度技術賞、平成20年度全国大会10年連続出場という実績が得られた。平成18年度のダブル受賞によりものづくり日本大賞内閣総理大臣賞の受賞につながった。プロコンにおいても平成18年自由部門優秀賞、平成19年審査委員特別賞、平成20年度自由部門文部科学大臣賞・最優秀賞、課題部門特別賞を受賞した。またアイディアコンテストでも平成18年度CVG四国で最優秀賞、優秀賞 四国経済産業局長賞、優秀賞、奨励賞、平成19年度CVG四国でビジネス最優秀賞・日刊工業新聞社賞、審査委員会特別賞、中国四国産業人クラブ賞、CVG全国大会で特別賞・TDK賞、平成20年度CVG四国でテクノロジー最優秀賞・四国経済連合会会長賞、ビジネス最優秀賞・日刊工業新聞社賞、審査委員会特別賞・中小企業基盤整備機構四国支部長賞を受賞した。


 本校電子工学科では1年生入学時に工学に対する興味を植えつけるための工学導入教育が重要と考え推進していた。この工学導入教育の新しい教材開発をメンバーが分担して行うことを考え「ものづくり」をキーワードにして電気回路、情報処理、ロボットの教材開発を行った。高度化再編後の香川高専の各学科のカリキュラムに工学導入教育を導入することが決まった。


 ロボコンチームの活動の一環として行っていた理科離れ対策-ロボット作製教室-をさらに推進した。この取り組みは小中学生の理科学離れ対策、高専入学者の確保、高専学生の教育という多様な側面を持っている。1回の学生や教員の負担を少なくし効率的に実施し平成20年度は1年間の開催回数は23回と当初想定した以上に増加した。これにより関わる小中学生数も高専学生数も増加した。現代GP終了後の平成21年度には「みとよ少年少女発明クラブ」の活動拠点を詫間電波高専とし、実施するテーマの約半数を詫間電波高専の現代GPメンバーが協力して担当することになった。また実施テーマ以外でも、クラブ員の保護者への効率的な連絡方法や出席管理なども積極的に協力している。


 市民が技術に身近に触れる機会を増やしまた学生と市民が一体となり学生の創造性教育を行うことを目的とした。この活動により市民が要求しているニーズを把握しそのニーズを高専の学生が解決するというシステムの基礎ができると考えた。 仁尾八朔人形祭りへの協力、お茶サービスロボットの開発などを行い地域からのニーズを高専の教職員・学生が解決するという官学連携の基礎が得られたと考えている。


 3.4地域一体型による創造性教育を発展させ最終目標の地元イノベーションにつなげるための取り組みである。高専の教職員が持っているシーズを地域ニーズと結びつけるという従来型の地域連携ではなく、学生の卒業研究のテーマを地域から創出し地域の研究者・技術者とコミュニケーションを取りながら卒業研究を行い、最終的にシーズ創出につなげ、地元イノベーションへ発展させるという産学官金連携を目標としている。当初想定していなかった3.4地域一体型による創造性教育からの発展型が生み出され、継続的なシステムが構築できたと考えられる。


 高専教育とは無関係と考えられるが「ものづくり」が持っている脳活性化を利用し高齢者の認知症対策に積極的に「ものづくり」を活用する試みである。当初はレゴブロック(レゴデュプロ)や特殊ブロック(カプラ等)を使用し幼稚園、小学校低学年の子供と高齢者が一緒にブロック遊びを行う取り組みを高専の学生をスタッフとして行った。その取り組みの中でゲーム機「Wii」を使用した高齢者対策のアイディアが生み出され、平成20年には試行実施、現代GP終了後の平成21年には三豊市の高齢者対策の一環として行っている。


 平成18年度に採択された現代GPの取り組みから高専、特に産業基盤の弱い地域に所在する高専の新しい地域連携のあり方を考えプランを立て、取り組みを実行した。実行は従来型の組織、予算、内容とはまったく異なる新しい発想に基づき積極的に行った。その結果、当初想定していた以上の結果が得られ、地域と高専の学生・教職員により、取り組み以前にはなかった高専のシーズを生み出し、次の取り組みにつなぐシステムが構築できた。これにより産学官金連携の基礎ができ、新しいシーズから地元イノベーションの創出へ向け産学官金連携へつながるものと考えられる。
本研究の一部は豊橋技科大平成20年度高専連携教育研究プロジェクトで行われたものである。


参考文献
注1) 平成18年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム選定取組の概要及び選定理由 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/07/06072402/005/001.htm