Q1は教育(技術者教育)と課外活動についての考え方に関する質問,Q2・Q3は2.で述べた能力ごとに分けた質問,Q4は現在取り組まれている実践例に関する質問,Q5は豊橋技術科学大学武道部において既に実践されている武道部メソッド2)に関する質問,Q6は広く本プロジェクトに関する自由記述となっている.その一例を図1に示す.
紙面の都合上,全てのアンケート結果を掲載することはできない.そこで,本節では,いくつか選択し,その結果を示す(全ての結果は
こちら).
まず,図2に課外活動の必要性についての結果を示す.
図2 課外活動の必要性
当然の結果とも言えるが,多くの教員は教育において課外活動が必要と考えている.必要と感じているからこそ,義務教育も含めて高校(高専)にいたるまで,課外活動に取り組んでいるのである.
次に,高専は5年制であり,3年制の高校に比べて指導期間が長いということが1つの特徴でもある.課外活動を通しての教育を考えた場合,この点を有利と考えるかどうかの結果を図3に示す.
半数以上の教員が,3年制も5年制も教育という面では優位性はない,つまり,指導期間の長さが必ずしも教育として有利ではないと捉えていることが分かった.
図3 高専の優位性
次に,図4に高専教員が考える実践的技術者に必要な能力について,図5に能力育成の可能性について,図6に技術的なこと以外の指導について,図7には能力育成について意識的な取り組みがされているかについての結果を示す.
図4 必要な能力について
図5 能力育成の可能性について(クリックで拡大)
図6 技術以外の指導について
図7 能力育成の取り組みについて(クリックで拡大)
教員が必要と考える能力の割合は,ほぼ経団連の調査結果と同様となった.さらに,それらのどの能力についても課外活動を通じての育成が可能であると考えているという結果も得られた.
また,約半数の教員は技術的なこと以外の指導も行っているが,能力育成つまり技術者教育としての意識的な指導・取り組みがされているというには難しい現状であることもわかった.
このような現状の中で,図8に示すように,有効なメソッドが提示されれば取り入れたいと考えている教員が2/3を占め,メソッドを構築することの意義・有用性が確認された.
図8 メソッドの導入について
次に,課外活動による技術者教育の有効性および教員・学生への効果についてのアンケート結果を図9に示す.
図9 課外活動の効果について(クリックで拡大)
多くの教員が課外活動を通じての教育・技術者教育が有効であると考え,学生にとって,非常に有益なものであると捉えていることが確認できた.
しかし,指導する教員にとっては,必ずしも有益ではないと考える人が多いという結果になった.
最後に,教員が学生と顔を合わせ指導のできる場であるミーティングに関するアンケート結果を図10,図11に示す.
ミーティングはどの課外活動でも行われており,半数の教員は何らかの指導を行っていることがわかった.
図10 ミーティングについて
図11 ミーティングへの関わり方
本節では,アンケートを通じて得られた,実際に行われている取り組み例を紹介する.
本アンケートでは,図4・図7に示した能力育成に関して現在行われている取り組みについて質問した.得られた結果を表1に示す.
コミュニケーション能力 |
? 挨拶
? コーチなど外部指導者に対する態度
? 報告・連絡・相談の指導
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協調性 |
? チームスポーツの意識付け
? 合宿・練習試合・高専祭などにメンバー全員で取り組む
? 問題の討議・討議結果の共有化
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主体性 |
? 学生自身に考えさせる
? それぞれの立場に応じたフォロワーシップ
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チャレンジ精神 |
? 目標の設定
? 目標達成のための考え方・行動
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誠実性 |
? 自分の行動・判断が他者に与える影響
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責任感 |
? 立場に応じた立ち振る舞い
? 部長・副部長中心とした運営
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表1 実践取り組み例
また,その他の取り組み例として,次のようなものも挙げられた.
? 時間を守らせる
? あいさつをさせる
? 掃除をさせる
? インターンシップ報告会や課題研究発表会などの発表の場を多くもうける
? 設備や道具を大事に使う
? 高専以外での部活動の取り組み方を知ってもらう.
本章では,アンケートを通じて得られた結果を考察し,メソッドを提案する.
4.で示したように課外活動を指導している多くの教員は,技術以外のことも指導している.その中で能力育成の可能性を感じながらも 明確に能力育成(技術者教育)として取り組めていないのが現状である.
以上の結果から,指導を行う際に,まずは,教員が明確に技術者教育を意識する必要があるのではないかと考える.また,アンケート結果(
PDF)にもあったが,技術者=人間であるので,技術者という言葉に囚われることなく人を育成するといった観点も必要である.
そこで,本論文では,人間(技術者)として重要な能力を自分の立場を正しく認識し,かつその立場に応じたやり方で意思を伝達する能力であると考え,
メソッド:意思の伝達ラインの構築を提案する.
例えば,ミーティングは教員・学生(先輩・同輩・後輩)が,相互に直接的に関係を構築していく場である.このような場において,意思の伝達ラインを構築していくことを通じて,実践的な技術者に必要な能力を育成できる可能性があるのではないかと考える.具体的には,次のような取り組みを例として挙げる.
1. ミーティングのリーダー(司会者)は教員と事前(目的の確認・意思疎通)・事後(反省点の確認)の打合せを
行う
2. ミーティングは学生主体で行う(学生間のライン構築)
3. 教員はミーティングに(オブザーバーとして)立ち会う
4. 可能な限り全員が発言できる場を設定する(立場の認識,立場に応じた対応)
5. 教員は能力育成という観点からリーダー・部員の反省点を見出し,改善していく
また,ミーティングだけではなく,通常の練習などにおいても,技術的な指導などを通じて意思の伝達ラインを構築することは可能である.
学生はこういった取り組みを通して,課外活動上での自分の立場を認識し,その立場に応じた対応を身に付けていくことで,実践的なコミュニケーション能力や協調性・主体性などを育成していけるだろう.
当然,こういった取り組みは既に多くの課外活動でされているであろうが,教員側がより明確に能力育成を意識した上で伝達ラインを構築していくまたは構築させることで,より高い効果が得られるのではないかと考える.
課外活動に対する技術者教育に関するアンケートを実施し,本校における課外活動に関する考え方・実践例を集約することができた.
また,その結果から,その可能性・メソッド構築の有用性を確認し,結果を考察することを通じて,1つのメソッドを提案した.
今後,実際に課外活動において本メソッドを実践し,その有効性を検証する.また,その結果をフィードバックすることで,より具体的に普遍化の可能性を探っていく.
あわせて,同様のアンケートを学生や企業に対しても実施し,より多くのデータを収集し,さらに多くのメソッドを提案したい.
参考文献
注1) 「技術者教育としての課外活動の可能性の提示と教育メソッドの開発」,平成20年度高専連携教育研究プロジェクト,豊橋技術科学大学
注2) 中森康之:「技術者教育としての課外活動の可能性~武道部メソッドの試み~」,pp.123-126, 平成20年度高等教育講演論文集(2008)
注3) 2008年度・新卒者採用に関するアンケート調査結果,(社)日本経済団体連合会