高専教育における課外活動の重要性と実践的試みを通しての可能性の提示


 高専においては、単に技術者育成のみを目的とするのではなく、人間としての成長期に合わせた情操教育を含めて、教育を実施することが謳われている。高専学生は、一般的に15歳~20歳の年齢が同時に同一構内に在籍し、学生の年齢レンジが比較的大きい。加えて、この時期の教育は、学生にとって人格形成と自己の確立において非常に大事な時期であると思われる。これらを踏まえると、この時期の課外活動を通しての教育には大きな可能性があり、充実させる必要があると考えられる。
 同時に、知識・技術の習得とあわせて、ものをつくる上での倫理観の育成や、昨今重要視されているコミュニケーション能力の向上などが上可欠である。しかし、これらは講義・実習のみで培うことが難しく、課外活動のような他者との協働を通して習得を促進してく方法が十分に想定できる。より充実した高専の教育を築いていく上で、以上の課外活動の持つ役割を、高専の目指す教育像と照らし合わせる必要があると考える。ここで、中森[注1]により、既に指導の手法をまとめるメソッド化が取り組まれている。今回は、そのメソッド化を念頭に、指導の方法やノウハウ、取り組み例の情報を蓄積し、課外活動の指導方法と教育的要素との関連性に着目して、その可能性を探る。
 課外活動では、活動内容や指導者により方針が異なるため、それらを一般化することは難しいが、高専の実験・実習を重視した実践型教育において、課外活動は大きな意味を持つと捉えられる。このような高専における課外活動の役割を明確にしていくことにより、その継続性や有効性を検証していけると考える。
 以上を踏まえて、教育メソッド開発に向けて、本稿では、高専において、ものづくり技術者の教育という視点からみた課外活動(特に体育系部活動)を取り扱い、その重要性と実践的な試みからのメソッド化の可能性を提示することを目的とする。


 本研究では、高専の課外活動の有効性を探り、指導方法いわゆる教育メソッドの開発に向けての可能性の提示と取り組み紹介を行う。このため、高専における課外活動の指導者に対して、各活動における指導取り組みについて、その意図と方法のヒアリング調査を行った。それを元に、取り組み内容の分析を行い、技術者教育における有効性を検討する。さらに、教育メソッド化の可能性を考察する。


 今回のヒアリング調査では、筆者が課外活動の状況を把握していることを考慮し所属している福井高専で行うこととし、実際に学生と共に活動している課外活動指導者を対象とした。また、サンプルとして、競技の特性による違いを考慮するために、今回は体育系部活動から団体競技と個人競技とのそれぞれから部活を選定した。
 ヒアリング内容は、各部活で指導の際にどのような方針或いは取り組みをしているかについて、その意図や実際の方法等を尋ねた。本稿では、指導の手法として意識して行われているものを取り上げて扱うこととした。現在までにヒアリングを完了している団体の一覧を表1に示す。

表1 ヒアリング対象団体
ヒアリング対象 団体吊
体育系部活動 個人競技 少林寺拳法部
団体競技 硬式野球部
女子バスケットボール部


 ここでは、ヒアリング調査で得られた内容を、団体毎に手法を整理する。

手法1:活動の場にいる
 部活動内の決まった時間にとにかく道場にいることにしている。学生とのすれ違いやモチベーションの低下を防ぐためである。
手法2:共に活動する
 口頭での指導だけではなく、可能な限り一緒に体を動かす。時間や行為を共有することで、学生との距離を縮める。
手法3:時が来るまでは気配を消す
 学生が稽古している際には、壁にあたる又は技の本質から逸れてしまう場合以外は、じっと我慢して手を出さない。学生から質問に来るときまで待ち、なるべく自身での試行錯誤の時間を設けることといつも指導者に確認するのではなく、主体性や自信を持たせるようにしている。
手法4:誰もがリーダーとなる場をつくる
 少林寺拳法の基本の練習の際に、前に出て号令をかける人間が必要となる。基本的には上級者(先輩)となるが、上在の場合や時には誰でも挑戦できるようにしている。また、この際には前に出る人を尊敬するようにと伝えている。
この意図として、上級者(上級生・先輩)は責任感やリーダーシップを培うと共に、人前に出て物事をやり遂げるという勇気を持たなければならなくなる。一方で、これを体験した学生は、まず前に出る勇気を知り、尊敬しつつ、その人が伝えようとしていることを想像しながら学ぶのである。
手法5:技は共同研究する
 理想形をみんなで研究してみる、探求を続けるという意図のもとに、指導者が1人で教授する形態だけではなく、学生同士で技の研究や試行錯誤に取り組んでいる。
手法6:とにかく1度受け入れさせる
 技の研究やバリエーションを紹介する際に、違うと感じてもまずはとにかく受け入れるように伝えている。学生はついつい「答え《を求める傾向にあるが、受け入れることで自身の「引き出し《につながると考えている。
手法7:昇給審査はカンフル剤として利用する
 武道では通常審査を経て級や段が昇格していくため、大会等と併せて目標となりやすい。しかし、福井高専少林寺拳法部では大会と、高専祭での演武会(10月)が学生の活動の大きな目標となっている。それ以外のモチベーション低下時期のカンフル剤として審査を利用している。また、その頃には演武会等を通して上達しているのである。
手法8:自身が他の場を持ち、充電する
 指導者自身の教える幅を拡げるための努力として、定期的に他の道場等で学び続ける。これは、一方では指導者にとって、様々な意味での充電となっている。
手法9:選択肢を常に拡げる
 1つの技であっても、様々なバリエーションがあることを教え、各自が自らに合うものを見出す場をつくる。武道においては、体格や能力に左右されない合理的な技術が技とされているが、実際には各人の体格や資質により習得しやすさに差がある。これにはバリエーションを示すための指導者の能力や努力が必要となるため、手法5、8と組み合わせられている。
手法10:少林寺拳法の、社会の窓となる
学生は指導者を通して少林寺拳法や社会をみている、そのことを自覚し社会のシミュレーションをしていることを伝える。もちろん自身も稽古し続ける必要がある。


手法1:グラウンドでは丁寧に挨拶する
 グラウンド内では、人が来られたらキャプテン或いは上級生が声をかけて、必ず手、動作を止めて挨拶をするように指導している。3年生までの高校野球においてはこれらが特に重視されるものであり、これを通して、グラウンド内だけでなく日常生活にもつながる礼儀正しさを身に付けることを目指している。
手法2: 声を出す
 指導者を含めて全員がグラウンド内に届くように、大きな声を出す。野球のチームプレーとして必要上可欠であり、手法1で目指す礼儀正しさと合わせてコミュニケーション能力を培う上でも重要と考えている。
手法3:練習後には必ずミーティングを行う
 練習終了後には、毎日ミーティングを行う。これはグラウンド上でできない技術的なことを教えると同時に、全員で確認し、それを繰り返していくことでチーム全体に浸透させていくためである。
手法4:試合後の振り返りも必ず直後に行う
 試合をしたら必ず直後に反省のミーティングを行い、プレーの意味や技術的な内容を確認する。野球という競技は試合時間が長いため、細かなプレー等を忘れないうちに確認しておく必要がある。
手法5:大会後にはレポートを提出する
 大きな大会の後には、学生に試合についてのレポートを提出させている。レポートには、個人の反省と試合についての内容、今後の取り組みを書かせている。これにより、学生自身で練習から試合までをきちんと整理するように指導している。
手法6:1年毎にチームの目標をつくる
 8月の大会が終わり、3年生が引退して新チームができると、個人目標とチーム目標を考えさせる。チームの目標は学生のブレインストーミングでつくりあげる。これには、目標によって考えや取り組み方を明確にさせると共に、ものづくりで用いられる手法を体験させるという目的がある。


手法1:とにかく声を掛け合う
 女子バスケットボール部は、部員数が急激に減った時期があり、練習人数が少なかった。現在顧問を中心に、日常、練習中問わずとにかくお互いに声を掛け合うことにしている。バスケットという競技はチームプレーであり、競技中を含めてコミュニケーションの重要性を意識して行動するように指導している。また、学生には様々なモチベーションが低下してしまう時期があるが、常に声を掛け合う、誘い合うことで、練習に向かう方向付けとなる。
手法2:全員がキャプテンの仕事をする
 練習に参加した学生が、順番で日誌を書くことにしている。練習内容はメニューによって決まっているが、日誌に実際にやった内容を書くことで、キャプテンや上級生以外でも練習メニューを知り、覚えるようにさせている。これにより、誰でもキャプテンになれる準備をすると同時に、練習やチームの状況に意見を言うことができる場としている。顧問は内容を確認してコメントをし、状況によっては練習メニューや内容の変更を行う。
手法3:先輩は目の前の後輩に教える
 基礎練習では、先輩が後輩に教える。全体の説明は顧問が行い、その後は先輩がマンツーマンで後輩を指導していく。後輩は学ぶという姿勢を持ち続け、先輩は教えることで自らの確認を行う。
手法4:試合直後にミーティング、初練習はミーティングから始める
 試合の直後には必ずミーティングで反省と確認を行い、その後の初の練習ではミーティングをしてから体を動かすことにしている。
 試合の直後のミーティングでは、その試合内容によって各自が試合やそれまでの練習の反省を行う。バスケットは制限時間内に様々なプレーや局面があるため、そのイメージを練習時まで覚えておくためである。初練習のミーティングでは、どのような練習が必要なのかを話し合い、明確にしてから体を動かすために設けている。また、直後よりも客観的に試合内容をみることができる。
手法5:マネージャーにはいつもお礼を言う
 練習、試合共にマネージャーにお礼を言うことを徹底している。引率の顧問をはじめ、周りから支えられてプレーをしていること、それを言葉にしていくことの重要性を知り、行動できるように指導している。学生自身もプレーヤーである時期とマネージャーとなる時期があり、またどのような場にあっても感謝することを心がけられることを目指している。
手法6:他所の練習・試合からフィードバックする
 指導する側も可能な限り他所での練習や試合を観たり、参加したりすることで情報を収集して練習にフィードバックしている。高校、大学など様々あるが、主にクラブチームの活動を紹介している。高専では、カリキュラムの違いから他校との試合を組むことが難しい面があり、高専大会にしてもある程度固定化された状況がある。そういった中で、他の情報を与えると学生は興味を持ち、モチベーションに影響する。また、クラブチームなど社会人のバスケットボールへの取り組み方からは、学生にとってその競技とどのように付き合うのか、人生の中での位置づけなども考える機会を与えられる方法としても有効と考え、行っている。



 3章において得られた内容の共通部分に着目して指導の手法から課外活動の有効性を検討する。
 まず、最も単純なものとして、学生と顧問が時間を共有する或いは共に活動する、ということが挙げられる。3団体の指導者はいずれも共に実践的な指導を行っている。課外活動、特に体育活動では実践に年齢等の制限も考えられるが、学生にとって、実践或いは共有する時間の多い指導者から学ぶものは多いと考えられる。これは、ものづくり教育における技術の実践としての実験や実習にも通じることが考えられる。
 次に、挨拶や声かけ、号令等のコミュニケーションと礼儀を大切にすることが挙げられる。コミュニケーションの面においては、練習・試合といった競技での実用性やモチベーション維持に対する効果を持っている。これは礼儀の面だけでなく、日常生活における学生の学習の自覚や共同作業に必要な力を育成できるものであり、ものづくりを含む教育上の大きな役割を持つと考えられる。
 最後に、ミーティングや確認、技の共同研究といった試行錯誤の場を設けることが挙げられる。これにより、学生は自分達でフィードバックする機会を体験する。反復することにより習慣化し、訓練されていく。これは、ものづくりの教育、現場で行われている作業と似ており、試行錯誤の過程の大切さを感じることにつながると考えられる。
 以上のような3点の共通する部分をまとめると、課外活動における手法から、実践的なものづくりの要素が含まれていることが分かり、高専の目指す技術者育成にとって有効であると考えられる。


 今回の調査では、個人競技と団体競技のサンプル数に差があり、単純に比較を行うことは難しいが、捉え得る特徴を述べておく。
 団体競技に共通することとして、全員での確認の場を多く設けることが挙げられる。これはフィールドつまり活動の物理的な空間が広いことから、確認を行う必然性があると考えられる。同時に、チームプレーに必要な共通認識を創り上げるための手段と考えられる。
 また、同じ作業(活動)を先輩・後輩で行うことが挙げられる。これは個人競技である少林寺拳法でも行われているが、特に学生相互の進歩や学年間での継承が鍵を握っていることが窺える。
 このような団体競技の特性に対応した手法、或いは個人競技でも技の共同研究などからは、チームやグループ単位で行われる共同作業を行う上で必要なコミュニケーション等の能力を養う要素が多く含まれ、高専の卒業研究や技術者としての活動にとって有効と考える。


 ここでは、高専の持つ実践的教育の要素とものづくり技術者育成の要素の2つの観点から、手法をまとめて教育メソッド化に関する考察を行う。事例の手法を整理したものを表2に示す。

表2 手法の整理

 表より、高専の実践的教育の要素に対して、ヒアリング全体で共通していた事項では「時間や作業の共有、挨拶や号令の習慣化、定期的なミーティング《が、サンプルで得られた個々のケースからは「レポートによる意識の整理と明確化、他のフィールドからの吸収、多様な選択肢《が、メソッドとしての有効性が挙げられる。
 高専の目指すものづくり技術者の要素に対しては、技術者や研究者に求められる能力から、全体からは「確認の徹底と共通意識づくり、先輩と後輩間での継承《が、サンプルケースからは「ブレインストーミングの活用、レポート作成、共に学ぶ姿勢づくり《が重要と考えられる。


 本研究では、課外活動指導者に対するヒアリング調査を行い、その指導方法の事例を収集すると共に、高専の技術者教育における課外活動の可能性を考察し、教育メソッド化の検討を行った。
 サンプル数が少ないものの、事例では基本的な事項である挨拶や号令といったコミュニケーションの継続からレポート制、ブレインストーミングなど様々な手法を捉えることができ、ものづくり技術者を育成する実践的な教育を目指すという高専の教育理念を促進する可能性が認められた。また、これらのサンプルからは現在の教育手法との大きな乖離が見られない点からは、一定のメソッド化も可能と考えられる。
 今後の展望として、まず今回収集した事例以外にサンプルを増やすことが必要である。指導の手法やノウハウを紹介し蓄積すると共に、実践的な試みの共通点から、教育メソッドとしての確立を目指す。


 本研究を進めるにあたり、ヒアリング調査に御協力いただいた方々に感謝致します。また、本研究は豊橋技術科学大学 高専連携プロジェクト(教育:代表者 中森康之)の一環で実施しました。ここに記して感謝の意を表します。


参考文献
注1)中森康之:「技術者教育としての課外活動の可能性~武道部メソッドの試み~《,pp.123-126,平成20年度高専教育講演論文集(2008)