「人間力」養成の試み~日本語コミュニケーション教育と課外活動指導~

中森康之


 「人間力」養成は、高度な技術者教育において不可欠である。また、高専から技科大へと連続する長期的・体系的視野で考えるのが非常に有効である。そう考えて、豊橋技科大の高専連携教育研究プロジェクトにより、2つの試みを行っている。

(1)プロジェクト

  • 期間:2007年度~2008年度
  • テーマ:高専から技科大に継続する日本語(国語)コミュニケーション能力の向上に向けた教育プログラムの開発と、それに基づくオリジナルテキストの作成
    共同研究者:焼山廣志(有明高専)
  • 期間:2009年度
  • テーマ:技術者教育における日本語コミュニケーション能力向上メソッドの開発とデータベース化
    共同研究者:焼山廣志(有明高専)、畑村学(宇部高専)、井上次夫(小山高専)、柴田美由紀(小山高専)
  前者で、焼山と中森は「読む・書く」分野と「話す・聞く」分野について、高専から技科大へと連続する教育プログラムを構想し、教育メソッドを開発した[注1]。後者はそれを発展させるものである。

(2)メソッド例

今回は、主観的な言説をもつ物語の朗読を聴き、自分の意見・感想を明確にし、それをもとにプレゼンテーション、ディスカッションする授業を紹介する。

a) テキスト・ねらい

テキストは、高倉健『南極のペンギン』(集英社2006)。作者本人の朗読CD付で、7分程度の短い話が10話収められている。
多くの技科大生は(おそらく高専生も)、主観的な言説に対して、自分の意見・感想を述べること、さらにそれを他者とのディスカッションによって深めることには、あまり慣れていない。本授業は、その能力を養成することをねらいとしている。

b) 授業の実際

①毎授業の最初に「朝の挨拶20秒プレゼン」を行う。このメソッドの詳細は紹介済だが[注1]本授業は受講生が多い(09年度は94人)ので、5~10分間で全員が歩き回って、挨拶プレゼンをする。
このメソッドは、話すことに慣れるという点で、非常に効果が高い。しかも授業の空気が格段によくなる。焼山の実践でも、学生が授業に積極的に取り組むようになり、「人前で話す抵抗感が少なくなった」、学生全員が「この取り組みが良かった」と答える等のアンケート結果が得られたものである。
②その後、朗読を聴き、5分間黙って自分の考えを纏める。この段階では、様々な感想がでる。
  • 一番最初に感じたのは、高倉健の無知蒙昧さである。大部分が推量で語られており、大事な無表情のまま答えたシーンも結局は予想なのだ。(略)さらに、その後の「夢をみろよ」と上からの目線での心の声だけで助けようとしない姿勢には本当にあきれて何も言えない。
  • 高倉健がとった行動は、辛くも大人の優しさだったのではないだろうか。では、ここで本当の優しさとは何だろうか。それは生きる力を支えていくことだろう。
  ③これらを「プレゼンテーション」「2~3人ディスカッション」「5~6人ディスカッション」等によって、お互いぶつけ合い深化させるのである。

c) 成果

 これを1学期間行うと、自分の主観を深める能力、他者に自分の意見・感想を伝える能力、他者のそれを聞く能力、ディスカッションによってそれらを深める能力が格段に向上する。学生もそれを明確に自覚しており、授業アンケート(2007年度)は、総合評価4.6/5点、以下のような自由記述があった。
  • 授業中に授業内容に感動しボロ泣きしたのは初めてでした。いいtextといい授業だと思います。
  • 最初は人数が多くて、自分の思っていた授業が受けられないのではないかと不安でしたが、逆に、この授業内容で、これだけ多くの人とディスカッションする事に対して、とても貴重な時間を過ごせたと思います。すごく身になったというか、良い授業を受けられたと思います。楽しかったです。
  • 各自の意見を出し合い、それについて話し合うことは、今までできなかった見方ができて、内容をより深く理解できた。また話し合い自体もとても面白かった。
  このような試みは、個別にではなく、高専技科大における技術者教育の連続化という長期的・体系的視野に立った連携によってこそ、より一層の効果が期待できるのではないだろうか。

 もう一つのプロジェクトは、下記である。
  • 期間:2008年度~2009年度
  • テーマ:技術者教育としての課外活動の可能性の提示と「人間力」養成メソッドの開発
    共同研究者:三崎幸典(詫間電波高専)(08年度~)
    山田誠(函館高専)(08年度~)
    岩﨑洋平(八代高専)(08年度~)
    江本晃美(福井高専)(08年度~)
    渡辺敦雄(沼津高専)(09年度~)
    三木功次郎(奈良高専)(09年度~)
  課外活動には、技術者教育における「人間力」養成の大きな可能性があると考え、「武道部メソッド」を考案し、武道部の指導をしてきた。さらに、課外活動指導を技術者教育として意義付け、その実践メソッドを共有することには大きな意味があると考え、本プロジェクトを実施している。その成果の一部は、平成21年度教育教員研究集会(高専機構主催)で各メンバーが報告した通りである。
今、紙幅に余裕がないので、その時中森があまり触れなかった点について、簡単に書いておく。
課外活動の意義は、何と言っても「実践」にある。しかも、学生のモチベーションが高い。これをうまく活用し、指導者が適切な指導を行うことにより、学生の「人間力」は飛躍的に伸びるのである。
例えば武道部では、年1回、市民文化会館で、一般の方を対象とした演武会を行っている。これが「社会との関わり実践」の場となっている。
まず第一段階として、武道部メソッドを普段から徹底して行う。部内で「実践力」を鍛えるのである。その上で演武会の、企画・立案、計画と実行、周辺店舗へのポスター掲示のお願い、協賛広告のお願い、地元FMやケーブルTVの出演交渉と出演等々、全員が「社会との関わり実践」を、先輩をリーダーとしたグループで行うのである。
武道部メソッドとこのようなシステムを基にした実践によって、社会で求められているコミュニケーション能力、協調性、主体性、責任感、実行力、計画力、チャレンジ精神、外向性、誠実性、課題発見力、状況把握力、プレゼンテーション能力等が総合的に養成される。その鍛えられた「人間力」は、就職先企業等からも、非常に高く評価されている。詳細はプロジェクトのWebサイトをご覧頂きたい。
http://hse.tut.ac.jp/nakamori/engineer_training/index.html
課外活動指導についても、日本語コミュニケーション教育同様、多くの指導者がもっている優れたメソッドを共有し、より技術者教育として意味のあるものにしたいと考えている。


[編集] 出典 脚注
注1)焼山廣志,中森康之:「高専から高専専攻科・大学に継続する日本語コミュニケーション教育に向けたプログラムの開発」, pp.367-370,平成20年度高等教育講演論文集, 2008、同:「客観的「自分」と主観的「自分」を語る方法」,同,2009参照。
注2)中森康之:「技術者教育としての課外活動の可能性~武道部メソッドの試み~」, pp.123-126,平成20年度高等教育講演論文集,2008、同:「メタメッセージを如何に伝えるか:武道部メソッド~技術者教育としての課外活動の可能性~」,同,2009参照。