「話す力」を鍛えるプレゼンテーションの授業

 畑村 学


1. はじめに

 高専の国語教育においては、従前の文学作品の読解を中心とした授業からコミュニケーション能力を高めるための授業へと、徐々に重点が移りつつある。こうした傾向は社会や企業の要請と合致するものであり、今後ますますその必要性が増すであろう。
そしてコミュニケーション能力といった場合、「聴く力」とともに大事なのが「話す力」であり、その話す力はスピーチやプレゼンテーション(以下プレゼン)を取り入れた授業によって最も効果的に修得される力であると考える。
 以下、筆者が国語の授業で行っているスピーチやプレゼンについて、特に1~3年生の授業を中心に「話す力」の修得を目的とした取り組みとその効果的な修得のための工夫を紹介することにしたい。
 なお筆者は、コミュニケーション能力を修得させるためのスピーチ・プレゼン授業について、参考文献に挙げた3篇の報告をすでに行っている。合わせてご覧いただければ幸いである。

2. 授業の実際

 平成18年度、筆者は1年生3クラス、3年生3クラス、4年生2クラスの国語に加えて、専攻科1年の「日本語表現」の授業を担当した。平成19年度は1年生2クラス、2年生4クラス、4年生2クラスと、専攻科1年の授業を担当している。
 筆者が担当する1~3年生の国語では、コミュニケーション能力を中心とした国語力の修得を目指し、一年を4回の定期試験を区切りとして、①要約・コメント、②スピーチ・プレゼン、③作文・小論文、④図式化と説明文、の4つのテーマで授業を行っている。それぞれ授業時間数は7回ずつとなる。

2_1 スピーチとプレゼン

 スピーチ・プレゼンの授業では、初回にプリントを使って優れた話し方・聴き方についてのガイダンスを行った後、2回目からさっそくスピーチを行う。1年生の授業では、毎時間課題を変えてスピーチを行い、最初は1分で行うが、その日の授業内容に応じて2分や3分でスピーチを行う。2、3年はスピーチを3、4回行った後、途中からプレゼンに切り替える。
 スピーチとプレゼンの違いについて、授業では次のように学生に説明している。すなわち、スピーチが自分の体験や体験から得た感想などをエピソードを交えて話すことで聴き手を楽しませるものであるのに対し、プレゼンは自分のアイデアや考えなどを話して聴き手を説得する目的で行われるものである。また、通常スピーチは口頭のみで行われるのに対し、プレゼンはプリントやパワーポイントなどの視覚資料を用いて行われることが多く、耳だけでなく聴き手の視覚にも訴えることで効果的な伝達を目指すものである。
 スピーチの課題は、「最近感動したこと」「おすすめの本」「夏休みの出来事」「私の友人」「今はまっていること」など、学生がエピソードを見つけやすいものを選んで行っている。プレゼンの課題は、「学習環境の改善」「学内施設の有効利用」「年間行事の見直し」など、こちらも学生生活に直接関係した比較的身近な話題で行っている。

2_2 スピーチ

 以下、筆者がスピーチ授業で行っている工夫について、
(1)発表メモ
(2)少人数グループ
(3)視覚資料の使用
の3点に絞って紹介することにしたい。

(1)発表メモ

 スピーチの「課題」は前の授業の最後にレポートとして伝え、その際「発表メモ」(図1)と発表内容を図やイラストなどを使って記す「資料プリント」(後述)を配布し、事前にスピーチの準備をさせておく。
 「発表メモ」では、まず教員が提示した「課題」を検討し、何について話すかを絞り込んで「話題」を決める。そして、スピーチする上で必要な事項を整理して「要約」し、「話題」について自分が感じたこと、考えたことを「コメント」する。
 このコメントが各自のスピーチの最重要部分であるが、コメントはまずその主題(テーマ)を「キーワード」を用いてスパッと言い、続いて主題が伝わる具体的なエピソードを記す。要するに、スピーチとは「要約」(何について話すか、それがどのようなものか)と「コメント」(どう思ったか、感じたか)の組み合わせであり、それを「発表メモ」によって事前に整理しておくのである。
 自己紹介やおすすめの本など、課題だけ提示して自由にスピーチをさせるという方法もあるが、その場合スピーチの構成は各自に委ねられるため、人前で話すことに慣れていない学生にとっては、テーマや構成が不明確なスピーチとなってしまうだろう。また、人前で話すことに慣れている学生は、場の盛り上がりばかりに気を遣い、肝心の内容の方がいい加減なスピーチとなってしまう傾向にある。「発表メモ」を準備することで、テーマや構成の明確な、聴き手に理解しやすいスピーチとなる。

図1

図1 発表メモ(最近感動したこと)

 なお、「発表メモ」は発表原稿ではないので、メモする時はキーワードか、長くても箇条書きにするよう指示している。

(2)少人数グループ

 授業でスピーチを行う場合、クラスメート40名を前にして話をすることは、人前で話すことに慣れた学生でもかなりの精神的プレッシャーを感じるであろう。また、卒業後に職場などの公的な場面で話をする機会は何度もあるにしても、学会発表などでない限り、普通は4~10名、多くても20名程度の人の前で話をする機会の方が圧倒的に多いのではなかろうか。
 クラスの学生全員を前にしたスピーチやプレゼンも在学中に何度か経験しておくことは必要だが、社会に出てから人前で話をする状況から考えれば、少人数のグループ(3名から多くても8名程度)で発言する機会を設けることの方がより実際の状況に近く、かつ人前で話し慣れていない学生にとって教育効果も高いと考える。
 また、クラス全員を前にしたスピーチは、時間的に多くの回数を設けることはできない。スピーチに慣れていないほとんどの学生にとっては、何よりも人前で話をする機会を多く設けることが大事である。よって、授業では3~8人程度のグループを作り、毎時間最低1回、多い時では1回の授業で聴き手をかえて同じスピーチを3~4回行っている。
 グループでスピーチする場合、教室内では数名の学生が同時にスピーチする状況となる。よって、話をする時には他のグループの声に負けないよう大きな声で話すよう指示する。

図2
図2 3人グループによるスピーチ

 図2は、スピーチ授業の最初の頃に、自由に3人グループを作り順番に2分間スピーチをしている様子である。スピーチが一巡したら、発表メモや資料の手直しの時間を2~3分設け再び相手をかえて同じスピーチを行う。最初は1分程度しかもたなかった話も、手直しを挟んで繰り返しスピーチを行っているうちに、内容の充実した、時間を有効に使ったスピーチができるようになる。
 なお、グループでスピーチを行う場合、教員は一部の学生のスピーチしか聴くことはできない。  そのために、授業時のスピーチそのものの評価は審査用紙を用いた学生による相互評価を取り入れ、教員はその審査用紙およびスピーチ後に回収する発表メモや視覚資料、発表後にレポートとして書く「発表原稿」によって間接的に評価している。

図3
図3 スピーチの評価項目(一例)

 図3は、課題「最近感動したこと」でスピーチを行った際に白板に書いた当日の評価項目である。授業では、話し手の指導と併せて聴き手の聴き方の指導も行っているので、評価項目には聴き手の態度(きちんと話し手を見ていたか、うなずいたり微笑んだりして話しやすい雰囲気を作っていたかなど)を評価する項目も設けている。
 学生はスピーチ終了後、それぞれの項目に関し最も優れていた者の名前を紙に書いて提出する。当日は3人グループで3回スピーチを行ったので、聴き手として6人のスピーチを聴いたことになる。6人のなかからそれぞれの項目で最も優れていた者を選ぶ。同じく話し手としても6人の聴き手の前で話をしたことになるので、6人のなかから優れた聴き手をそれぞれ選ぶことになる。

(3)視覚資料の使用

 スピーチの授業では、イラストや図、文字(キーワード)を書いた「視覚資料」を事前に準備し、それを聴き手に効果的に示しながらスピーチするよう指示している。
 スピーチは、通常はこうした資料は用いず口頭のみで行われるのであるが、本授業では必ずスピーチの内容と関連した視覚資料を作成してそれを使ってスピーチするよう指示している。
 これには3つの意図がある。1つは耳だけでなく聴き手の視覚にも訴えることによりスピーチ内容のより効果的に伝達することが可能となること、2つ目は資料に聴き手の視線が集まることで、聴き手の視線から受ける心理的プレッシャーを軽減することができること、そして3つ目として表やグラフなどの視覚資料を用いて行われることが一般的であるプレゼンへの橋渡しとなること(後述)である。
 人前に出て話をすることに慣れていない学生にとって、人の視線を受けながら話をすることは非常にプレッシャーとなる。話す内容を頭に入れた上で、声の大きさや姿勢、話す速度や話す態度にも注意を向けながら話をしなければならないのはかなりの重圧である。その際、話のポイントをイラストや図で表した資料があれば、聴き手の視線が自分の顔ではなく用意した資料に向けられるため、口頭のみのスピーチに比べて断然説得力が増し、さらに聴き手の視線によるプレッシャーを避けながら話をすることが可能となる。
 また、そうした視覚資料の使用は、話し手の提案やアイデアを聴き手に理解・納得させる目的で行われるプレゼンにも応用できるものである。この授業で作成する資料はグラフや表を使う本格的なものではないが、見た目を工夫したインパクトのある資料の作成や効果的な提示の仕方は、プレゼンへの橋渡しとなる。

図4
図4 視覚資料(今はまっているもの)

 図4に示したのは、課題「今はまっているもの」でスピーチをした際に学生が準備した視覚資料である。授業の時はこの資料を示しながらスピーチを行う。

図5
図5 視覚資料を手にスピーチする学生

 また図5は、視覚資料を使ってスピーチする学生の様子を写したものである。学生によって、最初から聴き手に資料を提示しながら話を始める者もいれば、途中で資料を提示してスピーチに変化をつける学生もいる。
 いつ資料を提示するかは学生本人に任せているが、資料はただ提示するだけでなく、一定の時間を使って説明をするよう指示している。

2_3 企画書を用いたプレゼン

 平成18年度前期中間試験後の3年生の授業では、1年生の授業と同じく、「おすすめの本」「最近はまっていること(もの)」といった身近な課題でスピーチを数回行った後、学生生活に関わる学内の諸問題を課題にして「企画書」を書き、さらに企画内容をイラストや図などを用いてわかりやすく示した「視覚資料」を書き、それをもとにプレゼンを行う授業を3回行った。
 プレゼンの課題は、「学習環境の改善」「年間行事の見直し」という2つのテーマで行い、平成19年度はさらに「学内施設の有効利用」という課題でも企画書を書いてプレゼンを行った。
 課題はスピーチの時と同様に前の授業の最後にレポート課題として伝え、企画書と視覚資料(いずれもA4)の二種類の用紙を渡し、次週のプレゼンに備えるよう指示した。
 当日はプレゼンの仕方を説明した後、まず5~6人のグループとなり、1人2~3分程度で順番にプレゼンを行う。プレゼンは準備した企画書をただ読むのではなく、企画のポイントを絞って話すよう指示する。また、視覚資料を有効に使って企画内容が効果的に伝わる工夫もするよう伝える。1人のプレゼンが終了したら、2人目以降も同様にプレゼンを行う。各グループ同時に行い、時間が余った場合は、質問やコメントをして企画がさらに良い内容になるようなアドバイスをするよう指示した。
 グループ全員のプレゼンが終了した後、企画内容の斬新さ、話し方・態度、資料の完成度・インパクト、総合評価などによってグループの1位を決める。そして選ばれた企画について、グループ全員でさらによい企画になるようアイデアを練り、ブラッシュアップした上でグループの代表者としてクラス全員の前でプレゼンを行い、他のグループの代表者と競う。
 プレゼンのテーマは、先に記したように学内の問題に絞って行った。学生生活に直接関係しない社会問題などをテーマにプレゼンを行っても、よほど身近な話題でない限り斬新なアイデアや鋭い企画は出にくい。話す力の修得を第一の目的とするのであるから、テーマを難しくして企画書や視覚資料の作成に労力を要するようであれば、意図した教育効果は期待できないであろう。スピーチにしてもプレゼンにしても、1~3年生で行う場合、学生に身近な課題を取り上げて行った方が、話題やテーマを見つけやすく、学生に負担が無く、話す力の修得に向いている。

図6
図6 プレゼン企画書(年間行事の見直し)

図7
図7 プレゼン視覚資料

 図6・7に挙げるのは、課題「年間行事の見直し」で3年生の学生が書いた企画書および視覚資料である。
 企画書は、まず四角の枠内にインパクトのある言葉で「メインタイトル」を記し、その下に企画内容を正確に要約した「サブタイトル」をつける。以下、目的・現状・効果・要望の順で箇条書きに内容を記し、最後に署名をする。
 この学生は、高専には中学や普通高校のようなクラスの団結を深める行事が少ないという点を問題とし、体力や団結力、コミュニケーション力をアップさせるために全学生による「歩行祭」と称するイベントを企画している。
 学生の考えた企画には、この企画書のようにおよそ実現が難しいものも見られる。しかし、授業の目的はあくまで話す力のレベルアップにあるから、企画内容の実現性についてはそれほど評価の際に重視しないことにしている。

3. まとめ

 以上、本報告では、コミュニケーション能力の1つである「話す力」の修得を目的とした1~3年生でのスピーチ・プレゼン授業の取り組みについて紹介した。
 スピーチやプレゼンは、高専では国語の授業を中心にすでに広く行われているが、本報告では効果的な話す力の修得を目指し、(1)発表メモ、(2)少人数グループによるスピーチ・プレゼン、(3)視覚資料の利用、の3つの工夫を紹介した。また、スピーチ授業での視覚資料の利用を応用した、企画書を用いたプレゼン授業の実践も合わせて報告した。
 最後にこれまでの取り組みの反省点と今後の課題を述べておく。
 (1)発表メモは、毎年改良を重ねており、平成19年度は図1で紹介したものを使った。スピーチは、話す内容とともに話す順番(構成)も大事である。今後も内容と構成の両方をよりスムーズに整理・確認できるメモの形式に改善していく必要がある。
 (2)少人数グループによる方式では、同時に何人もスピーチを行うため、指導者は1グループのスピーチしか聴くことができないという問題がある。話す機会を増やすことを優先するか、話す回数が少なくなっても指導者が直接聴いて指導する機会を設けることを優先するか、どちらが最適か難しいが、毎回の授業で優れた話し方のポイントを確認し、学生による相互評価の審査項目を工夫したり、発表原稿を書かせたりすることによって、直接学生のスピーチを聴かなくても評価は可能である。よって、少人数グループで話す回数を増やした方が、特に多くの人の前で話した経験の少ない低学年においては有効であると考える。
 (3)視覚資料の利用は、プレゼンだけでなくスピーチにおいても非常に有効である。ただし、資料の完成度ばかり気にして、それをどのように使って話をするかについては指導が徹底できなかった。資料を使ってスピーチやプレゼンをさせる場合、資料の使い方(出し方、示し型、説明の順番など)も含めて指導する必要がある。
 今後はスピーチ・プレゼンの授業を通じて、実際に話す力が修得できたのか、試験結果の分析やアンケート調査を通じて確認し、さらなる授業の改善を目指したい。


 注

1)『高専における国語コミュニケーションスキル教育の評価と改善 中間報告書』(平成14―15年度国立高等専門学校協会教育法方改善(東北地区高専)共同プロジェクト、鶴岡工業高等専門学校主幹、2003年3月)参照。
2)『高等専門学校のあり方に関する調査報告書』(みずほ総研、平成18年3月)に拠れば、高専卒業生を受け入れる企業へのアンケート調査の結果、高専卒業生は大卒者と比べて専門知識の面で優れているという評価を受ける一方、コミュニケーション力の面で劣っており、「人間との関わりの面で問題を抱えている」「専門知識の伝授を重視するあまり、人間性の部分がおろそかになっている」というゆゆしき事実が指摘されている。

 参考文献

1)漢詩を素材としたプレゼンテーション授業の実践、『漢文教育』29、pp.1-34(2004)
2)「聴く力」をつけるプレゼンテーション授業、『高専教育』29、pp.385-390(2006)
3)「図解力」を鍛える―プレゼンテーションスキルを磨く国語の授業―、『高専教育』30,pp.463-468(2007)