高専生と読む漢詩―プレゼンテーションを取り入れた高学年国語の授業実践―

畑村学

1. はじめに
今回紹介するのは、筆者が4年生の国語で行っているプレゼンテーションの授業である。
これまで筆者は、コミュニケーション力を効果的に習得するための取り組みとして、「聴く力」「話す力」「図解力」の3つに分けて高専の国語の授業の実践報告を行ってきたが(参考文献1~4)、それらは主として1~3年の授業の紹介であった。今回は低学年の国語で上記3つの基礎的な力を習得した学生が、その集大成として行う4年生のプレゼン授業の実践報告である。
本報告の最後に平成19年度に行った学生アンケートの結果を掲載しており、この授業を通じて、ほとんどの学生が話す力だけでなく聴く力、図解力を習得できたと実感している。本報告では、具体的な授業の取り組みを紹介するとともに、本授業におけるコミュニケーション力、プレゼンテーション力の効果的な習得の工夫について紹介することにしたい。
なお、本報告で紹介する授業については、筆者は平成15年12月6日に開催された「漢文教育研究会平成15年度研究大会」(広島大学附属中・高等学校)で一度発表したことがある。今回改めて同じ授業を紹介するのには、以下のような理由がある。すなわち、
(1)前回の報告からすでに5年近く経過し、授業内容や方法が変化・改善していること。具体的には、資料に掲載するだけであった考察内容をまとめた図を白板にも書くようにし、それに基づいてプレゼンテーションを行うようになったこと(後述)、審査用紙の項目の変更など―
(2)発表した学会の性質上、新しい漢文の授業の可能性という視点からの報告であり、今回とは視点が異なること
(3)前回の参加者は中学校・高校の国語の教員であり、高専の教員ではないこと
(4)そして(3)と関連するが、コミュニケーション力やプレゼンテーション力の育成は、社会が高専の学生に対して強く習得を求めている能力であり、こうした力を習得させる取り組みは、国語科だけでなく高専全体で行われるべきことであり、よって本報告が全ての高専教員の参考に資すると思われること
以上の大きく4つの理由から、ここに改めて報告する次第である。
2. 授業の実際

(1)授業の概要

発表1
図1 白板に書いた図を説明する学生

本校の国語の授業は、1、2年生は現代文と古典(通年、3単位)、3年生は現代文(通年、2単位)、4年生は担当教員により小論文、プレゼン、ディベート(半期、1単位)などを行っている。5年生は国語の授業はない。
平成19年度、筆者は1年生2クラス、2年生4クラス、4年生2クラスに加えて、専攻科1年の「日本語表現」(1単位、半期15回)の授業を担当した。
筆者の担当する4年の授業は、プレゼンの課題として1人1首、参考書やインターネットを利用して漢詩を自由に選び、それを参考書や辞書を使って各自が調べ、その結果をA4×4枚の資料にまとめ、その資料をもとにプレゼンを行うというものである。
こうした授業を、筆者は平成14年度から行っており、これまで計409首の漢詩を学生が調べ、学生の資料作成やプレゼンの準備をサポートしてきた。学生とともに読んだ詩を詩人毎に整理すると、杜甫63首、李白58首、白居易(白楽天)49首、杜牧29首、王維28首、陸游16首、李商隠10首、その他156首となる。一度扱った詩はガイダンスの時にリストを作って提示しており、同じ詩を選ばないように指導している。

(2)ガイダンス

最初の2回の授業は、プレゼンの準備期間を兼ねてガイダンスに当てている。ガイダンスでは、資料作成の方法やプレゼンの方法などをプリントを使って説明する。また、授業時には簡単なテーマで図を書いてプレゼンを行ったり、3人組でスピーチを行い話し方や聴き方、図の説明の仕方を実践したりする。2回の事前指導を終えて、3週目からは実際にプレゼンに入る。

(3)プレゼンまでの流れ

図1
図2 プレゼン当日の流れ

プレゼン当日までの作業として、まず最初のガイダンス後、1週間以内に自分が担当する漢詩を1首探し、合わせて同じクラスの1名にプレゼンの司会を依頼する。
プレゼン資料は担当日の1ヶ月~2週間前から作りはじめ、筆者の研究室で個別指導を繰り返し受けながら完成へと近づける。資料を完成させるまでに、平均して1人7、8回の指導を受けることになる。
資料はプレゼン前日までに完成させ、筆者に提出する。

(4)プレゼン当日

プレゼン当日の朝、担当者は筆者が印刷しておいたクラスの人数分の資料を受け取り、1限が始まる前にクラスの全学生に配布する。授業は午後に組んでもらっており、授業前の休み時間に、プレゼン資料に掲載したのと同じ、考察内容をまとめた図(後述)を白板に書いておく。ここまでが事前準備である。
論文1図3 学生のプレゼン資料(表)

論文2図4 学生のプレゼン資料(裏)

授業時のプレゼンは、前半と後半の大きく2つに分かれる。考察の前までの前半では、詩を訓読し、口語訳を述べ、詩題や詩人の紹介をする。ここまででいったん質問を受け付け、この時は一問一答式で答える。
質問に答えた後、考察以降のプレゼン後半部に入り、白板の図を使いながら自分が考察した点についてわかりやすく説明する。プレゼンが終了したら、筆者が指定した列の学生は一斉に起立して、司会者に指名された順番で質問することになる。
授業終了後、発表者はクラスの学生から提出された審査用紙(後掲)の結果をまとめ、翌週の授業までに「プレゼンのまとめ」を作り、印刷してクラス全員に配布する。まとめに記す事項は、審査結果(総計、各項目の平均点)、最も優れた質問者、質問に対する回答、プレゼンの感想であり、A4×2枚にまとめる。
3. 授業の工夫

(1)審査用紙を用いた学生による相互評価

プレゼンの評価は成績全体の40パーセント(残りは期末テスト、授業時の質問ポイント、レポートがそれぞれ20パーセント)であり、学生評価と教員評価(いずれも審査用紙の結果)を同じ割合で成績の評価に加えている。
プレゼンの審査項目は下記の10項目であり、それぞれ5点満点(計50点)で評価する。

1 資料(見た目・構成)は工夫されていたか
2 説得力のある深い考察が行われていたか
3 構造的でわかりやすい図が書けていたか
4 誤字・脱字など無かったか
5 聞き取りやすい声で発表が行われていたか
6 発表の態度に工夫が見られたか
7 図の説明はわかりやすかったか
8 質問に対してきちんと答えられていたか
9 発表内容は理解できたか、興味を持ったか
10 ※空欄

1~4まではプレゼン資料の評価であり、5~8が話し方や話す時の態度に対する評価である。9・10はプレゼン全体の評価であるが、10は審査用紙に最初から5点の評価をつけており、聴き手が発表者の発表で最も良かった点(例えば、声の張り、気合いの入った服装、笑顔など)を記入することにしている。
学生による相互評価を取り入れるのは、学生のプレゼンを客観的に評価する目的以外に、次に述べる聴き手の「聴く力」のレベルアップを考えてのことである。

論文3
図5 プレゼン審査用紙

(2)聴き手に対する指導

半期15回の授業では、ガイダンス時や発表者の少ない授業時にスピーチや短時間のプレゼンを行うことはあっても、資料を準備し、10分という学生にとっては比較的長い時間行う本格的なプレゼンは1人1回限りである。よって、自分がプレゼンをする時以外のほとんどの授業は、学生は聴き手として授業に参加していることになる。そこで、話し手の話す力の習得と同時に、聴き手の聴く力の習得も授業の目的に加えたのである。
具体的には、先に述べた「質問の義務化」である。1人のプレゼン終了後、筆者が列を指定する。指定された列の学生はいったん全員起立し、質問か、あるいは発表内容や態度をほめる具体的なコメントをしなければ着席できないことにしている。
授業を午後に設定しているのも、当日朝に配布されるプレゼン資料を授業が始まるまでに目を通し、事前に質問を考える猶予を与えることがその理由である。
プレゼン終了後に行う質問は、指定された列以外の学生も挙手して指名されれば質問できるが司会者には指定された列を優先して指名するよう指示している。
発表者は、質問がある程度出そろったら、そのなかから考察のテーマに関連したレベルの高い質問を2つだけ選んで答える。選ばれた質問者には通常の2倍のポイントを与えることにしている。
ただ、発表者が選んだ質問がいつも優れているとは限らず、人前に出て緊張した状態では簡単に答えられる些末な質問を選んで答えてしまう傾向がある。よって、審査用紙の末尾には「一番良かった質問者」を選ぶ欄を設け、聴き手が客観的に優れた質問を選べるようにしている。多くの者から選ばれた優れた質問者は、プレゼン後に発表者が作成するプレゼンのまとめに名前を記載し、これも選ばれた質問者として質問ポイントを2倍にして加算している。

発表3
図6 指定された列の学生

(3)図解力の習得

プレゼン資料には、考察内容をわかりやすく整理した図を掲載することを義務づけている。そして、実際のプレゼンでは、資料に掲載したのと同じ図を、授業の前の休み時間に白板に大きく書き、プレゼンの際には白板に描いた図を指し示しながら発表するように指示している。
プレゼンのツールとして、ここ数年注目されているのが「図解」である。図解とは、物事の本質や文章のキーワードを捉えた上で、その関係を丸や四角といった図形や矢印などの記号を用いて表現したものである。優れた図が描けるかどうかは、プレゼンの成功と大きく関わっている。
一例として、図7に晩唐の詩人・李商隠の「無題」という詩を扱った学生の資料に掲載されていた図を挙げる。この学生は、詩の中に詠われる男女の恋愛に関係する2つの故事から作者李商隠自身が直面している恋愛の状況を類推し、対応関係を図解したものであり、故事に記される恋愛と作者自身の恋愛の共通点を軸にして、非常にわかりやすい構造的な図を描いており、学生からも高い評価を得た。

発表2
図7 考察内容をまとめた図解
4. 授業の効果
以下、平成19年度後期に経営情報学科4年のクラスで行った授業アンケートの結果を挙げる。回答はクラスの全学生38名から得た。

図4

図3

図2

まず、「良いプレゼンテーションの仕方」(大勢の前での話し方、説明の仕方、態度など)に関しては、38名全員の学生が「身についた」と答えており、半数の19人が「非常に身についた」と回答している。
次に「人の話の聴き方」(見る、うなずく、微笑むなど)については、35名が「身についた」ことを実感し、「図解力」(図の書き方)については、34名の学生が「身についた」と回答している。

以上、本授業の学生評価は非常に高く、授業における取り組みが、学生にとって非常に有益であり、筆者が想定した学習目標が、今回のプレゼン授業において習得されたと言えるであろう。
5. おわりに
以上、本報告では、筆者が4年生の国語で行っているプレゼン授業を取り上げて、プレゼンテーション力やコミュニケーション力を習得させるための取り組みを紹介した。
具体的には、①審査用紙を用いて学生による相互評価を取り入れていること、②話し手の学生の指導だけでなく、聴き手の聴く力の習得も同時に課していること、③資料に図の掲載を義務づけていることである。
こうした取り組みにより、話す力、聴く力、図解力といった、プレゼンテーションに必要な基本的な能力がある程度習得できていることが確認できた。
今後はプレゼン回数の増加や聴き手の質問力のアップを図り、学生のコミュニケーション力のさらなる向上を目指したい。
■注および参考文献


1)漢詩を素材としたプレゼンテーション授業の実践,『漢文教育』29,pp.1-34(2004)
本稿は、上記報告以外にも、論文集『高専教育』に掲載した下記2)~4)の報告とも関連している。参照されたい。
2)「聴く力」をつけるプレゼンテーション授業、『高専教育』29,pp.385-390(2006)
3)「図解力」を鍛える―プレゼンテーションスキルを磨く国語の授業―、『高専教育』30,pp.463-468(2007)
4)「話す力」を鍛えるプレゼンテーション授業、『高専教育』31,pp.463-468(2008)